山川 望 | 東京名花

きちんと結ばれたスカーフに
指の先まで神経が行き届いた所作。

搭乗口での微笑みはあくまで静かで礼儀正しく
声のトーンも抑えられている。

けれど、近くに立つとわかる。
言葉とは裏腹に、その空気にはわずかに熱がこもっている。

すぐに逸らす視線、息を飲み込むような間合い。
何かを堪えるように、喉の奥で小さく震える呼吸。

空調の効いたロビーの片隅なのに
彼女の肌だけが微かに艶を帯びているように見える。

スカートの裾が揺れるたび、
ほんのわずかに覗く太ももの内側に目が釘付けになる。

言葉数は少ないのに、肌の距離が近づくと、耳の奥に何かが残る。
息混じりの声、その合間にほんの僅かに漏れる音。

それが意図されたものなのか思わず漏れたものなのか
――判断がつかないほど自然で、艶やか。

制服の中の彼女には、まだ誰も触れていない領域がある。
そしてそこには、彼女自身も気づかぬまま育った
強くて柔らかな熱が、静かに満ちていた。

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